新・国際金融体制:ブレトンウッズ3

出所:ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar), photo by Katelyn Perry

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クレディ・スイス(Credit Suisse)の短期金利ストラテジストを務めるゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏は今月、新たな世界通貨秩序についての論文を発表したことで、ブレトンウッズ3の議論が再燃しています。

今回は、そんな金融の世界で話題になりつつある「国際金融体制」について取り上げます。

ブレトン・ウッズ体制

ブレトン・ウッズ体制とは、第二次大戦後に米国を中心に作られた、為替相場安定のメカニズムです。1944年に戦後の国際経済体制を構想するため、米国にあるブレトン・ウッズ・ホテルに連合国の代表が集まって決められたことから「ブレトン・ウッズ体制」と呼ばれています。

この体制は、為替相場の安定、インフラ整備のための長期投資の促進、多角的貿易の自由化という 3 つの柱からなっており、それぞれの目標を達成するために国際通貨基金(IMF)世界銀行GATT という 3 つの国際機関を設立するというものでした。

つまり、ブレトン・ウッズは、中央銀行や政府が金融の面で守るべき当時の新世界秩序を立てたものなのです。

それに伴い、国の準備資産である「外貨準備」が重要な役割を果たすことになりました。

外貨準備とは、政府が保有する外貨建てやコモディティの資産を指し、貿易や他国に対しての債務返済時に使用する資産です。

この準備資産は、国内経済で起こっている事態に対応する際にも機能します。例えば、自国通貨が弱そうならば、外国通貨を売り自国通貨を買うことがあります。また、通貨以外の資産に移すことも有ります。

ブレトン・ウッズ1(金・ドル本位制)

ブレトン・ウッズ1とも呼ばれる最初のブレトン・ウッズ体制は、金(ゴールド)1オンスを35ドルと交換レートが定められた金本位制(金・ドル本位制)でした。過去と異なる点は、各国通貨と米ドルの交換比率を固定し、ドルだけが金と交換比率を固定するという固定相場制という点です。

戦後復興に欠かせない円滑な経済発展のための決済システムは、通貨の安定化への功績はとても大きかったのです。

しかし、このブレトン・ウッズ1は、世界経済の復興発展のためには大いに役立った反面、アメリカ経済にとっては大きな負担となりました。

米ドルが世界の基軸通貨の役割を果たすということは、世界が必要とする需要を供給するために、アメリカが経常収支赤字を出し続けなければならなりません。つまり、世界経済の発展のため、様々な国への援助や”バラマキ”、戦費の嵩みにより、米ドルの信用の裏づけとなっている金(ゴールド)の流出し、マネーが無くなってしまったのです。

そして、1970年に、アメリカはドルの変動為替相場制へと移行を余儀なくされました。(ニクソン・ショック)

これは、通貨とコモディティ(現物商品)との固定レートという以前に、簡単に増えない金(ゴールド)を担保に米ドルが増発されるというブレトン・ウッズ1の矛盾が明らかになったことに他ならないと言えるでょう。

ブレトン・ウッズ2(米ドル基軸通貨)

そこから、ブレトン・ウッズ2が誕生しました。

金(ゴールド)は通貨と異なり、柔軟に流通量を増やすことが出来ないため、通貨の担保が「国の経済の信用」に取って代わりました。

しかし、経済の急速な拡大において、通貨発行量が拡大しやすい通貨は米ドルであったため、世界の基軸通貨が米ドルのままでした。

そして、現在の「インサイド・マネー」と呼ばれる誰か他人の負債となるものに対する権利が発生するシステムに移行しました。また、その対義語である「アウトサイド・マネー」とは、誰かの負債でない資産です。

例えば銀行から100万円を借りるとしましょう。

窓口にて、「お金が必要なので、100万円貸してください」と銀行員に伝えます。すると、銀行側がその金額を返す能力があると判断すれば、100万円借りることができます。

ここで何が起きているのかというと、銀行側は私の預金通帳に新たに「100万円」と記入し、自分は「100万円」を借りたことを証明する借用書を銀行に渡すことで、100万円を手に出来るのです。

そして、銀行側は、万が一の時のために、現金通貨の引き出しと信用創造後の銀行間決済に備え、中央銀行に一定額の準備預金を預け入れます。

つまり、「(物理的に)何もないところから」借り手の信用を担保にお金を生み出しているのです。

具体的には、中国が米国債を保有している場合、それは、中国がアメリカが米ドルを発行する際に発生したアメリカの「借用書」を受け取ることができるという権利を保有していることを意味しています。

また、中国が米ドルを売って金(ゴールド)を買えば、誰かの負債を保有している訳ではないので、アウトサイド・マネーにあたります。

ブレトン・ウッズ3

そんな中、米ドルの覇権が終わり、新しい国際金融体制に移行するのではないかと主張しているのが、ウォール街で注目されているゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏です。

この契機となるのが、ウクライナ有事に際してロシアに対する経済制裁であるとされています。

バイデン政権による、ロシアの一部の銀行のSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除、ロシア一部の銀行業務の停止、ロシア中央銀行の外貨準備の凍結は、ロシアだけでなく、世界経済に大きな打撃を与えています。

特に、ロシアの外貨準備の凍結の影響が懸念されています。

ロシアの外貨準備はロシア中央銀行が担っているが、その額は、GDPの4割にも相当する約6,400億ドル(約74.7兆円)で、世界で5番目の規模です。クリミア併合した2014年から1.6倍も増やしています。

今回の制裁では、この約6400憶ドルのうち、約3000憶ドルがアクセスできなくなるとロシアのシルアノフ財務相はインタビューで説明しています。

しかし、ロシアの貿易の中心は、原油や天然ガスなどのエネルギー関連であり、主な輸出先はブラジルやインド、中国といった親ロ・反米のような国々が中心です。そして、プーチンはロシア経済の「脱ドル化」政策を進めており、現在のロシアのドル決済は10%程度とされています。

こうした背景のもと、「脱ドル化」が進むのではないかとささやかれています。

「どんな国であっても、外貨準備(米ドル)の凍結可能性があるという認識が各国・地域中央銀行に浸透すれば、基軸通貨である米ドル以外への外貨準備の分散をする動きが加速するかもしれません。近年の世界情勢は、国際銀行経由の相互送金が新たな金融秩序の到来を告げるものとなり得る」とゾルタン・ポズサー氏は主張しています。

アメリカのバイデン政権の政策によって、米ドルの信用が失われ米ドルの覇権が終わるなんて、なんという皮肉なんでしょう。

アウトサイド・マネーのインフレ

こうして、SWIFTからのロシアの部分的排除から、コモディティなどのアウトサイド・マネーが注目されています。

これは、世界各国・地域中央銀行が準備資産として強化することにマーケットが敏感に反応し、値上がりしています。

しかも、モノの値段が上がっているだけで、給料は上がらなければ、「悪いインフレ」が続くことでしょう。

まとめ

固定相場制の崩壊後、変動相場制に移行したのにもかかわらず、基軸通貨の揺らぎから現物商品への回帰が議論されているという国際金融体制の変遷について解説しました。

しかし、世界の各国・地域中央銀行の準備高は6割が米ドルであり、国際決済の8割が米ドルである現実を踏まえれば、米ドルの覇権がすぐに失速するようなことは考え難いと思います。

それ以前に、今回の有事から学べることは、1つの金融制裁で簡単に国際金融システムを揺るがす可能性があることを念頭に置くべきであるという教訓であると私は思います。

市場の底流で起きようとしている変化についても着目することで、見えてくる世界も変わってくるのではないでしょうか。

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

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